アート部門寸評

アート部門は昨年に続き応募数が増え、全体的に作品のクオリティが高い印象を受けた。その結果、大賞に該当する作品はなかったが優秀賞の受賞者が2名出たほか、受賞者が例年よりも多かった。来年以降も引き続き多くの応募を期待したい。

優秀賞受賞作のひとつめは、関谷哲史さん(30)のCGコラージュ『Fools On The Wall』。ビートルズの楽曲に登場するセイウチ、ブルドッグ、豚などのキャラクターをCGのバーチャル空間に出現させ、息を吹き込んだ意欲的な作品。プレゼンテーションにもうひと工夫ほしかった。もうひとつは、大嶋幹久さん(45)のイラスト2作品『林檎灯』と『それぞれの林檎』。温かい画風で、ファンタジーの世界のどこかに、ビートルズ4人が今でも存在してるように感じさせる作品である。優秀賞受賞者2名とも独自の画風を完成させていて、今後もビートルズをテーマにした作品を制作していってほしい。

佳作受賞者も2名。ひとつめの作品は金城寛子さん(19)の油絵『PSYCHEDELIC』。髪の毛をサイケデリックな配色にしたビートルズ・メンバーをひとりずつキャンバスに描いた作品。4枚1組の連作で、4枚を横に並べるとひとつの作品になる。写真ではわかりづらいと思うが、油絵の具とともにラメやライン・ストーンを使用したり、髪の配色でウィッグをかぶっているように見えたりと、日本のティーンエイジャー文化がアートの表現手法として活かされた「ジャパニーズ・ポップ・アート」と言ってもいいだろう。ふたつめは、向井栄一さん(34)の色鉛筆画『音楽の神様』。確かなテクニックと計算された構図でビートルズを音楽の神様として描き、独特な世界を表現している。ほかの作品も連作で見てみたい。

奨励賞は6名。作品からビートルズへのほのぼのとした愛が感じとれる中村賢志さん(36)のクレイ人形『4人はアイドル』、ジョンと同じ丸眼鏡を通じて作品を見るというコンセプチュアルな岡崎有佑さん(22)の4連作のコラージュ作品『彼らは地球を見ていた』、手芸のテクニックをアートの領域まで高めた橋口由実さん(41)のビーズ作品『Lucy in the sky, with the Beatles』、国技館でのビートルズ公演を軽快な色鉛筆のタッチとコミカルな画風で描いた愛須健三さん(55)の『幻の国技館公演』、ビートルズの楽曲を数値に変換してビジュアル表現した実験的な小林健太郎さん(27)のCG作品『YESTERDAY』。そしてペン画のコラージュ作品『John Lennon』の吉野静さん(16)は、2度目の奨励賞受賞。2年前の受賞作品よりも着実に表現手法が上達していて、独自の画風が見え始めている。将来の作品に大きな期待をしたい。

今回は残念ながら受賞はできなかった藤井陽子さん(33)のモノクロ写真『イマジン』は、写真作品としては完成されたものだったが、ジョン・レノンを作品から感じ取ることができなかった。作品の解説がなかったことが悔やまれる。

(講評/ザ・ビートルズ・クラブ大賞審査委員会)


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